ニシン漁と北前船で栄えた北海のまち江差を巡る
日本海に面する渡島半島東部の町・江差は、その昔ニシン漁や北前船による交易で栄え、民謡の「江差追分」でも知られるところです。今でもニシンにまつわる不思議な伝承をもつ「かもめ島」、大漁祈願の絢爛豪華な祭礼がある「姥神大神宮」、問屋建築を今に伝える「横山家住宅」、座礁した幕府の軍艦を復元した「開陽丸記念館」など、多くの見どころがあります。
かもめ島
(写真:車椅子で行く神社仏閣・パワースポットの旅)
町の西側、日本海に浮かぶかもめが羽を広げたような形をした小島が「かもめ島」です。江差港マリーナがある南埠頭の突端から陸続きで直接かもめ島に渡ることができる遊歩道「かもめの散歩道」が整備されています。全周2.6キロメートルほどの小島ですので、徒歩でも1時間ほどあれば一周することが可能です。
この島にはニシンにまつわる不思議な伝説があります。折居という名の老婆が、かもめ島に現れた神から水の入った瓶子(小瓶)を授けられ、その水を海に撒くとニシンの群れがやって来たため、人々は米が穫れなくとも生活ができるようになったというものです。
かもめ島にはこのときの小瓶が岩になったという「瓶子岩(へいしいわ)」があり、遊歩道からしめ縄が張られた岩の姿を間近に見ることができます。もっとも「瓶子」ではなく、アイヌ語で「大きな頭の岩」を表す「ヘンシ」が転じたものとする説(『江差町史』)もあります。
かもめ島にはこのほか、江戸時代に活躍した北前船を係留していた大きな杭の残骸「北前船係留跡」、源義経の愛馬が化石になったという「馬岩」、波の侵食で平らになった海辺の岩盤「千畳敷」、江戸幕末に松前藩が海上防備のため設置した砲台の跡「テカエシ台場跡」および「キネツカ台場跡」、北前船の船頭らが寄進した手水鉢が残る「厳島神社」などがあります。
姥神大神宮
(写真:車椅子で行く神社仏閣・パワースポットの旅)
「姥神大神宮」は江差の市街地に鎮座する古社で、文安4年(1447)の創建ともいわれています。
ニシンの恵みをもたらした折居(於隣ともいう)は、後に行方知れずとなってしまい、人々が老婆を探して草庵を訪ねると、厨子の中に神像が残されているのみだったといいます。
この神像を「姥が神」として祀ったのが「姥神大神宮」であり、摂社「折居社」とともに、もとは「北海漁祖折居社」の石碑がある国道228号姥神交差点近くの場所にありましたが、正保元年(1644)に現在地へと遷座しました。
姥神大神宮はニシン漁の祈願社として、藩主の松前氏から永久祈祷を仰せ付けられ、例祭には江差奉行(檜山奉行)の代参があったといいます。
その姥神大神宮の例祭は毎年8月に行われていますが、なかでも8月9日宵宮祭、10日・11日本祭の日程で行われる「姥神大神宮渡御祭」は、神輿の後を豪華な山車が供奉して町内を巡行するもので、全国から多くの観光客が訪れます。
山車のうち弘化2年(1845)につくられた御座船型の「松寶丸」、宝暦4年(1754)につくられた神功皇后の人形を載せる「神功山」は、北海道有形民俗文化財に指定されています。渡御祭そのものも北海道指定無形民俗文化財(風俗慣習)です。
姥神大神宮の拝殿内部には松前藩8代藩主・松前道広が揮毫した「隆民殿」の扁額が掲げられていますが、もとは『詩経』にある「有客」の一節「既有淫威。降福孔夷。」を引用した「降福孔夷」の額だったといいます。
文化3年(1806)参拝に訪れた星野鉄三郎ら幕府巡検使一行は、草書体で書かれた文字を「降福紅夷」と読み間違い、紅夷(ロシア人)の幸福を祈願するものとして内通の疑いがあることを上申しました。
その後の文化4年(1807)には、蝦夷地の幕府直轄領化、前藩主・松前道広の永蟄居、9代藩主・松前章広の陸奥国梁川転封が立て続けに決まっています。
横山家住宅
(写真:車椅子で行く神社仏閣・パワースポットの旅)
「横山家住宅」は、姥神大神宮の向かいにある問屋建築で、かつて廻船問屋を営んでいた横山家のものです。横山家の初代・宗右衛門はもともと能登国珠洲の出身で、文政5年(1822)から現在地に店舗と住居を構え、子孫代々に受け継がれています。
内部はウナギの寝床のように細長く、全長が70メートルもあります。正面に帳場(店舗)と住居をもつ母屋があり、その裏に文庫蔵と四番倉までの倉庫が並びます。建物の前面には通し庭があり、風雪をしのぐため「野鞘」と称する覆屋がかけられ、さらに海岸に面して荷物の積み下ろし場や作業場、物置などとして用いられる「ハネ出し」と呼ばれる建物もあるのが特徴です。
現在は建物内部にニシン漁で使われた道具類や調度品などが展示されているほか、食事処では甘く煮付けた身欠き鰊が乗った家伝の「にしんそば」を味わうことができます。
■所在地:北海道檜山郡江差町姥神町45
■電話番号:0139-52-0018
■入館料:大人300円、中学生150円、小学生100円
■公式サイト:[こちらをクリック]
■交通アクセス:道央自動車道「大沼公園インターチェンジ」から車で75分
開陽丸記念館
(写真:車椅子で行く神社仏閣・パワースポットの旅)
「開陽丸」は、海軍力の充実を企図した徳川幕府がオランダに発注し、慶応2年(1866)に竣工した軍艦です。
幕府崩壊後も榎本武揚の指揮のもとで箱館戦争に参加し、箱館から出港して江差を占領したものの、明治元年(1868)11月15日、暴風雨のために沖合で座礁・沈没してしまいました。
昭和50年(1975)から海中発掘調査が開始され、大砲やサーベルなどの遺物が引き上げられました。また、平成2年(1990)には当時の設計図をもとに実物大で開陽丸が復元され、開陽丸の歴史の紹介や遺物の展示を行う「開陽丸記念館」がオープンしました。
■所在地:北海道檜山郡江差町姥神町1-10
■電話番号:0139-52-5522
■入館料:大人500円、小中高生250円
■営業時間:9:00~17:00(入場は16:30まで)
■公式サイト:[こちらをクリック]
■交通アクセス:道央自動車道「大沼公園インターチェンジ」から車で80分